聴覚障害当事者研究シンポジウム2019に参加して 感想と備忘録

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中途失聴のハルクです。

2019年9月29日に宮城教育大学で行われた、「聴覚障害当事者研究シンポジウム2019」に参加してきました。

昨年は定員オーバーで参加できなかったので、念願の初参加となります。

参加してみての感想は、とにかく密度が濃いなということでした。

5人の聴覚障害当事者が行った当事者研究の話題提供と、当事者研究の専門家である熊谷先生の90分の基調講演。

朝の10時から16時まで6時間、一つたりとも見逃せませんでした。

アウトプットすることで、インプットした知識や考えをより自分のものにできるはずなので、かんたんですが感想を書いてみたいと思います。

当事者研究とは?

今回のシンポジウムを通して、当事者研究とは困りごとを抱えた本人が自分自身のことを、周囲の人や同じような困難を抱えた人と一緒に研究することだとわかりました。

これまで障害者に限らず、難病や依存症などさまざまな困りごとを抱えた人を救うため、たくさんの専門家が研究を行ってきました。

これによって多くのことが判明し、聴覚障害の分野でも教育法や医学的なカテゴリーなどさまざまな進歩がなされています。

しかし一口に聴覚障害者と言っても、その困りごとは人によってさまざまです。

例えば私は重度難聴ですが、オーディトリーニューロパシーという病気が原因で中途失聴となり、またシャルコー・マリー・トゥース病によって足にもふらつきがあるので、たえず変化する身体に心が追いつけていけないような感覚があります。

このような個々の困りごとは当事者自身が一番わかることです。

個々の困りごとに対し、研究というアプローチ(観察・仮説・実験・共有)を行うことで、「自分自身について新しい言葉や知識を発見し」、「それを通して何らかの生きやすさがもたされる」ことが当事者研究の価値になります。

もっとわかりやすいお話は、今回のシンポジウムを主催する宮城教育大学の松崎先生のnoteをご覧ください。私は感銘を受けました。

2018年に行われた第一回聴覚障害当事者研究シンポジウムの報告書も無料でダウンロードできますよ。

聴覚障害×当事者研究の話。|松﨑 丈|note

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当事者がよりよく生きていくための研究ですね!

①そうだったのかAPD〜受信でも発信でも見えにくい苦労〜

そうだったのかAPD、当事者研究シンポジウムの感想

1つ目の話題提供では、APD当事者から。

APDとは「聴覚情報処理障害」のことです。

外耳・中耳・内耳ではなく脳の機能に問題があるため、聴力は正常できこえているのにわからない困りごとが大きな特徴です。

きこえているのにわからないって、難聴よりさらに目で見てわかりにくい障害だと感じます。

そのもどかしさはいかほどでしょうか。想像よりはるかに困難があると思います。

報告では、当事者から日常生活で受信と発信に大きな困りごとを抱えていることがあげられ、それぞれの困難の状態を観察し、対処法を考え実践し、なぜ困りごとになっているのか仮説をたて改善している様子があげられました。

今でも実態を明らかにしていく研究が行われているなかで、当事者自身だからこそわかる実際の困りごとを研究によって明らかにしていくことで、必ずAPD当事者の役に立つ研究になると感じました。

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当事者が自身の困りごとにフォーカスしてるので、周囲の人にとっても「ああ、なるほど」とわかりやすい!

APD当事者の会があるようです。さまざまな当事者の会は、当事者研究と相性がよさそうです。

APD(聴覚情報処理障害)当事者会 APS

APD(聴覚情報処理障害)当事者会 APSTwitter

②泣き声だけじゃモノ足りない!〜新米難聴ママ 七転びや八起きの当事者研究〜

難聴ママの子育て当事者研究、当事者研究シンポジウムの感想

2つ目は難聴の女性と、健聴の子供の子育てに関わる当事者研究。

彼女は子供から発されるサインやSOSに気づけない・気づくことが遅れてしまう困りごとがありました。

育児中に困りごとが発覚すると、それはどんなときに、どんな場所で、どんな状態で起きているのか細かく分析します。

このとき当事者だけではなく、周りの人の指摘によって観察の視点を増やすことで、さらなる気づきを得ることができるとありました。

印象に残ったは日常生活が当事者研究となっていること。

育児を通して研究を行うことで、一つ一つの出来事や人との関わりを丁寧に観察し、言語化している様子が伝わってきました。

親子の間の困りごとも当事者研究としてできるとは、びっくりです。

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育児と研究は相性がよい!?

③音を失う身体と、置き去りにされる心と。〜日記でつなぎとめる当事者研究〜

中途失聴者の当事者研究、当事者研究シンポジウムの感想

3つ目は、中高生のときに中途失聴となった女性が当時の日記や学校の連絡ノートから当時の思いをつむぎなおす当事者研究。

私自身同じ頃に中途失聴となったので、重なる部分が多すぎて感情をせきとめるのに必死でした。

健聴から失聴へ、聴力が少しずつ低下していくにつれ、波のように襲いかかってくるかずかずの困りごと。

これまで正面から向き合って研究し分類したことがなかったので、当事者研究として言語化した彼女に感謝です。

指針を示し、整理されることで救われる人はたくさんいるんだと実感します。

また彼女の「どうしたってつながりたかった「私」を大事にしてきた」の言葉に、私自身の高校時代を思い出しました。

人や社会とのつながりが消えそうでなくなりそうで震えていた高校生時代。

どうしても誰かとつながることをあきらめられなくて、私は手話を学びはじめました。

この当事者研究を当時の自分に見せることができたら、きっと変化が起きただろうと思います。

中途失聴の当事者として、当事者研究の可能性を強く感じる内容でした。

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いつか自分もできたら!

中途失聴者一人は嫌だ中途失聴の私が手話を覚えようとしたきっかけ【ひとりはいやだ】

④ろう学校生徒による当事者研究の可能性〜語りと対話で紡ぎだす自立活動の実践〜

ろう学校の自立活動における当事者研究、当事者研究シンポジウムの感想

4つ目はろう学校の自立活動の授業での実践。

自立活動では、教師が生徒に一方的に知識を教えることが一般的です。

そうではなく、生徒の困りごとは生徒だけのものであると捉え直し、生徒自身が学友・先生と力を合わせて困りごとを理解し、生きていく力を身につけることが大切ではないかとあげられました。

実際に社会の中で生活していくのは生徒です。

学校にいる間から、困りごとに対するアプローチを身につけておくことは、非常に大切なことだと感じます。

一方で授業をするとなると、教師の力量いかんによって、どこまで深くつきつめることができるか左右されるだろうなと。

当事者研究の考え方が広まることで、方法論が一般化され実践しやすくなると良いなと思います。

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この授業受けたかったな〜

⑤親子関係の物語を紡ぎ直す当事者研究

親子関係の紡ぎ直し、当事者研究シンポジウムの感想

5番目はシンポジウムを主催した松崎先生の当事者研究。

親子関係という非常にセンシティブで客観視が難しい内容を、当事者研究のアプローチで迫っていて、こういうこともできるんだと驚きました。

あらためて研究という行為の懐の深さを感じます。

研究のキーワードは「弱さの情報公開」

子供は障害に起因する弱さを親にうちあけることができるか、親は子供に育児に際しての弱さなどをうちあけることができるか。

私自身弱さの情報公開をすることには今も抵抗があります。

言っても相手の負担になるだけだとか、言ったところでなにかが変わるわけではないだとか。

なぜこのように思うのか、根底にある理由を明らかにしたいと思いました。

そのためには問題の外在化が必要です。自分と問題を切り離し、共有できるようにしなければなりません。

といってもそうかんたんにできるとは思えないので、研究の経験を重ね共有していくしかないのでしょう。

他者の当事者研究を聞くことで、自分の認識していなかった困りごとに気づくきっかけとなることもあります。

親子関係のつむぎなおしが困りごととなっている人も、多いのではないかと思います。希望をもてる当事者研究でした。

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親も当事者、自分も当事者、この考え方が大事なのかな

聴覚障害当事者研究の実践から見えてくるもの

当事者研究シンポジウムの感想

最後に、東京大学バリアフリー支援室の熊谷先生の基調講演です。

90分と講義と同じ時間でしたがが、10回の講義を1つにぎゅっとつめたような密度の濃い講演でした。

特に興味深かった内容が2つあります。

1.当事者研究の基本的な考え方

なにをもって「わたし」と言えるのか。他人と「わたし」を形作る要素を考えたとき、それは2つあるそうです。

  • わたしだけの「からだ」
  • わたしだけの「物語」

たとえ同じ身体をもっていたとしても、つむがれる物語は別のはずです。

先生は「この2つがけんかしてしまうタイミングこそ、当事者研究をしてもらいたい」と話していました。

これは非常に重要だと思います。

私の場合、高校生の頃に中途失聴となり「からだ」が変化しました。

その結果、これまで続いてきた物語を継続することは不可能になり、物語は破綻しました。

けんかの仕方はいろいろありえますが、そのけんかが起こったとき当事者研究をすることで見えてくるもの、わかることがあることを知りました。

いままでけんかをしたときも、研究するという発想がなかったので、これから私のからだと物語が今どういう関係になっているのか、注意して見ていきたいと思います。

2.自立の反対は依存ではない

自立の反対は依存ではなく、むしろ依存先を増やし1つだけに依存しないことが自立につながるんだという話も興味深かったです

例として災害が起き建物の2階以上から避難しなくてはならないとき、健常者は階段、エレベーター、ロープなど依存先は複数でそれぞれへの依存度は低い(他に代わりがある)ですが、車椅子ユーザーに場合、エレベーター1つのみへの依存度が深く反比例している状態があげられました。

「自立とは依存先の分散」であり、例えば共同的な子育てが子に困ったときは頼っていいと社会や他者への信頼感をもつようになると学びました。

私の困りごとに対して、「解決しないことに悩むのではなく、仲間と解決しないね〜と話すことが解決につながる。それができる依存先を増やすことが大事」とお話くださり、自立という意味をあらためて考えさせられました。

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「解決しないね〜」、その一言を共有する勇気と理解の難しさ

シンポジウムに参加して

私も当事者研究をやりたくなりました。

自分自身の困りごとを研究することで、今の言葉に出来ない当事者感のなさに言葉をつけ、少しでも心の傷を生きやすさに変えていけたらいいなと思います。

まずは他の人の研究を知ることと、当事者研究の勉強から。

熊谷先生の当事者研究入門の本があると知ったので、ここからはじめたいと思います!

「当事者研究をはじめよう」と下の2つをあわせて3冊シリーズで、熊谷先生が編著しているそう。勉強します。

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